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2014/08/29

バックマン製3段積みストックカーの奇々怪々

Bachmann's Humane triple-deck live stock car. Is this a poultry car?

Humane Live Stock Car HLSX 1

 このモデルが我が国のネットオークションに出品されていて、ついついクリックしてしまった。何の思い入れも無いのだけれど、この特徴的な形態には見覚え。【画像はクリックで拡大】

 普通、ストック・カー=家畜車といえば、"single-deck"(1段積み)か、"double-deck"(2段積み)。前者が牛で、後者が豚や羊。
 さらにポールトリー・カー=家禽車が鶏用の"multi-deck"。ただし、この"multi"が具体的に何段かが問題。我が国のパ1やパ100は6段。

 で、このバックマン社製は、いずれにも属さない"triple-deck live stock car"、すなわち3段だという。以前は、"51 foot tri-level poultry car"を騙っていた。1979年版のカタログに"New"と掲載され、品番1295(HOseeker.NET)。しかし、アメリカで家禽車の3段は、明らかに可笑しい。

 実は、実車写真が実務者向け解説書のCar Builders' Cyclopedia 1937年版に出ている。

Humane Live Stock Car HLSX 1

Triple-Deck Stock Car for Sheep, Lambs and Small Live Stock. Provision for Feeding and Watering; Caretaker's Room at End. North American Car Corporation. Car Builders' Cyclopedia 1937 p166

 確かに"triple-deck"=3段だと書いてある。但し積み荷は、羊、子羊や小家畜。すなわち、「パ」ではない。ということで、現在のバックマン社のラベルは"50' Humane Livestock Car"。でも、透明プラスチック板に描かれている画は金網越しの鶏で、6段という奇々怪々。
 なお、このような書割風の表現は、客車の窓に人物のシルエットなど、トイ・トレインでは常套手段。

12dsc00469

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付添人室の開口部にくる部分の透明シートをわざわざ切り欠いているのは、メーカーが構造を分かっていない証拠

 さて、この車両の新造時期について、アメリカのTycoフォーラムでは、「車体標記に記載がない。スタイルからして19世紀後半、あるいは1900年代初頭」と予想している。
 しかし、前述のとおり1937年刊の書物に出ているわけで、結構新しい。この写真の側梁付近をジッと睨めば、"NEW 10-28"と読める。すなわち、1928年10月製造ということ。1940年版にも同じ写真が載っている。台車が一見してAARタイプの、ラテラル・モーション高速型を履いていることとも時代的に合致する(この台車については「アメリカ型鉄道模型大辞典」を参照)。貴重なページを使って取り上げているけれど、製造数が1両だけということはあり得る。この頃のORER="Official Railway Equipment Register"を持っていればはっきりするのだろうが。
 19世紀末に"Hicks Humane Live Stock Car Company"という会社が存在したようだが、この貨車との関係は不明。"humane"は「人道的な(weblio辞典)」という意味なので、家畜へのストレスが無い貨車を謳っているのだろう。

 なお、3段積みの豚積車が戦後、ストックカーの終末期に登場している。Railcar Photos.comに写真を探すとHOGX (Clougherty Packing Co.)とUPで、いずれもGunderson Brothers Engineering Corp.が関与。
 前者のモデル製品は、OMI/Ajinが1996年に発売しているものの、お目にかかったことは無い。
 後者の記事が、MRG誌1988年5月号にある。

 ところでこのモデルの車、屋根に上るハシゴが片側に3か所、うち1つはウォーク・ウエイ用。ということは、屋根上から給餌、給水を行い、各段には飼い葉桶(トラフtrough)。床下には、排泄物の貯蔵タンクがあるはず。付添人室には暖房用ストーブの煙突。たぶんこの車、結構複雑な構造で建造費もそれなり。

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 この付添人室は、1段や2段の家畜車には設けられない。ストックカーが生きものを扱うために運用の優先順位が高い点を考えると、専用編成か、客車列車への併結だから、世話をする人員は、コーチか、専用のドローバーカブースに乗車したのだろう。

 一方、ポールトリー・カーには必ず付添人室が付帯している。家禽は手が掛かるのか、または輸送単位が小さくて車両を多数、連ねることが無かったのかもしれない。ただそれを車端に設けた例は見ない。全て中央。
 わが国でも「カ(家畜車)」は付添人室無しで、「ウ(豚積車)」と「パ(家禽車)」には有る。
 次は、同じ1928年版から、ポールトリー・カーの例。128個の鳥カゴ"coop"というのだから、割り算をしていって8段か。

Cbc1937p166b
Steel-Frame 10-Ton Capacity Poultry Car.  The Live Poultry Transit Company. Weight, 51,200 lb; Inside Length, 35 ft. 10 in.; Number of Coops, 128; Coop Space, 1,760 sq. ft.

 野次馬的には、そのカゴに興味がある。大きさや形状が規格化されていないとまずい。積み下ろしに便利で、給餌や給水にも使えるってどんなものなのだろうか。車体には貫通扉が備わっているから、中央に通路があるのかもしれない。
 次はWikipedia英語版が示す特許の挿絵だけれど、ちっとも分からないし、普及したものとは異なるのではないか。

Us3040050b

 というわけでバックマン・モデルは、時々発生する珍車のマスプロ製品化。貴重なのか、ミステーク=不幸なのかは判断の分かれるところ。カプラーや車輪が最新の仕様になっても発売され続けているということは、それなりの需要があるのだろうが、買う側に知識が無くて、この種の製品がこれだけという理由でしかない、と断定しておこう。

 当方のコレクションの範疇としては当然、ガラクタボックス

【追記】ポールトリーカーの構造を知りたいと探しているものの辿り着けない。その中で、日本国鉄の家禽車パ10が大阪の交通科学館にあったという情報(楽しい遊覧鉄道)。モデルだけれど内部構造が知れる。単に棚を設けて竹カゴを載せてあるだけ。2014-09-02

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新旧製品探訪」カテゴリの記事

コメント

ワークスKさんのおっしゃる通り、“humane”とは、家畜を人道的(と云うのも変だが)に取り扱う意です。TV映画「ローハイド」でお馴染み(旧い!)のように、牛はテキサスなどの牧場から、鉄道が通じている街まではカーボーイによって、それから先は鉄道に乗せて運ばれたが、トンデモナイ長旅だったそうです。そんな時代、テキサスの牧場から、カンザス・シティまで2~3カ月を要したとか。これでは目的地に辿りつく前に、お陀仏になってしまう牛も当然出てくる訳。

これを救ったのが新型の家畜車である訳ですが、法律の後押しもありました。列車で家畜を運ぶ場合、停車して家畜を降ろし、給餌して最低5時間は休息させること無しで、28時間を超えて輸送することはできない、と云う連邦法が制定されたからです。輸送時間も非常に短縮され、1940年頃にはテキサスの牧場から、カンザス・シティまで休息なしで法の定める所定時間以内に輸送できたし、モンタナからシカゴまでの1600マイルを途中1回の休息だけで、輸送した由です。

この話は、“This Fascinating Railroad Business”(by Robert Selph Henry, 1942 The Bobbs-Merril Company刊)から引用しました。文章主体の本で、読みとおす気力はないのだが、拾い読みすると中々面白い本です。

>>そう。ですから、ラテラル・モーション台車が必要なんですね。規則は、MR誌1955年11月号p70にはICC(Interstate Commerce Commission)とあります。で、疑問は、適用される家畜の種類にニワトリが入るのか、ということで、規則の原文を探しているのですが‥‥【ワークスK】

投稿: 宮崎 繁幹 | 2014/09/06 00:45

>> で、疑問は、適用される家畜の種類にニワトリが入るのか、ということで、規則の原文を探しているのですが‥‥

規則の原文は以下の通り:
49 U.S. Code § 80502 - Transportation of animals
(a) Confinement.—
(1) Except as provided in this section, a rail carrier, express carrier, or common carrier (except by air or water), a receiver, trustee, or lessee of one of those carriers, or an owner or master of a vessel transporting animals from a place in a State, the District of Columbia, or a territory or possession of the United States through or to a place in another State, the District of Columbia, or a territory or possession, may not confine animals in a vehicle or vessel for more than 28 consecutive hours without unloading the animals for feeding, water, and rest.

しかし、これでは animals が定義されていないから、ニワトリが入るかどうかは判らない。でも次のような解説がついていて、除外されていたようですよ。ご参考まで。しかし、鉄道趣味てのは、奥が深ぁぁぁいですね!

The 28 Hour Law does not define "animal" or "livestock." However, like the Humane Slaughter Act, The 28 Hour Law is interpreted by the US Department of Agriculture to not apply to birds.

>>さっそく検索すると、なんと現行法! 水と空には適用されない、ということは自動車輸送には関与ですかね。大辞典のストックカーの項を書き換えました【ワークスK】

投稿: 宮崎 繁幹 | 2014/09/06 20:29

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