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2014/08/25

京阪大津線の600型を思い起こせば

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 とれいん誌、京阪大津線の小型高性能電車を特集する第2弾は9月号で600型。7月号の500型は消滅してしまっているけれど、こっちは今でも走っている。ファンにとっては歓迎されるはず。おまけに模型用詳細図面を手練れの宮崎文夫氏が提供されている。なんと1次車と4次車。【画像はクリックで拡大】

 冒頭は、2次車を作ったときの提案画。1次車の写真をなぞって、正面だけを変更したもの。500型を広報に提供したときに、「足が無くてユーレイだ」と言われたこともあって、その辺りは抜かり無く描いている。ただし、600型が出版物で使われた記憶はない。

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 記事の執筆者である新宮琢哉氏から問い合わせがあった。戸袋窓ガラスのブルーが以前と比べて濃くなっている感じがするという。とりあえず、「ガラスの厚さを3mmから5mmに変更した効果ではないか」と答えたけれど、辻褄が合わないので現車を見に行ってきた。

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 戸袋の内窓ガラスもブルーになっていた。そして、カーテンが無い。その巻き取る部分にキセは残っている。理由はこれ。カーテン地の保守に手を焼いたのだろう。車番は613。

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 ついでに運転台(612)のパノラマ写真。“ナガシ”が健在で涙が出る(笑)

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 さらに、1次車(605)と2次車以降(619)の正面妻の差。場所は石山寺駅

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 車体輪郭は、単に角のRが異なるだけ。

 ところで、冒頭に2次車の画を出したから、当然読者は、1次車では描かなかったのか、と問いたくなるはず。それを話すと長くなる。

■車体長の延伸

 500のときに話題としたように、狭い乗務員室を前後方向に拡大することは当方にとって懸案の一つ。

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 図は順に500、80、600と並べている。連結面間長をみると、80と600の15,000mmに比較して、500が14,900mmと100mmだけ短い。これが一つのポイント。軌道運転規則は次の通りに定めている。

第46条(連結車両の長さ) 車両を連結して運転するときは、連結した車両の全長を30m以内としなければならない。但し、車両を入換し、故障となった車両を収容しまたは回送する場合は、この限りではない。

 2両連結で30mなら、1両では15m。たぶん、260、300、350の頃は、厳密に連結器の遊間とか緩衝器の撓み代を考慮して、この規定を守ろうとしたもの。一方80では、「呼び寸法=公称寸法が納まっていればいい」と判断している。

 で、600は、80で実績があるのだから連結器を100mmだけ、前方へ移設できる。幸い、構造的には容易。これで乗務員室も100mm拡大。さらにホロを設けず、連結は非常時のみだから、「350mm」の寸法を縮められる。連結器の動作や曲線通過を検討したら、250mmでいける。これで100mmを捻出できて、合計で200mm。京阪線6000系で実施したばかりだったから、すんなりOKが出た。この6000も当方の提案で、その話はまたいずれ。

■前面形状の検討

 方針は初めからハッキリしていた。乗務員室の空間を大きく採るために、正面はなるべく扁平とし、ガラスには500型と同じものを使う。6000系のイメージを出してくれという注文も付いた。直ぐに厚紙とバルサ材で1/10のモックアップを作った。むろん、オチャノコサイサイ。そういえば、500でも作った。ただし、雨樋から上の屋根は無し。

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 まあ、ここまでリアルに出来上がると誰も文句は言わない。鋼体図もあっという間に仕上がった。前面の腰部は6mm厚の鋼板一枚とした。500のときに懲りたこともあるけれど、2枚の貼り合わせよりも強度が出る。曲面とした理由も強度。現場には「戦車か」と言われた。溶接は変形、歪を収めるのが難しかったかもしれない。アウトラインで異なるのは、角柱の斜めの面。このままだと妙にネジレている。そこで「く」の字形の稜線を立てた。誰も気にしないけれどね。

 しかし、鋼板の発注を掛ける段になって、とんでもない事態となった。大津の担当部署から、「こんど異動してきた上司に、正面のガラス上縁を上げろと指示された」と言ってきた。何センチかは忘れたが、無茶苦茶に背の高い人物だった。500に添乗したら見難いんだと。
 下縁の高さはそのまま、ということはガラスの互換性が無くなり、予備品を新たに用意しなければならない。

 常識的には、窓は大きい方がいいと思うだろう。でも、このモックアップ写真を眺めると、行先表示器の収納寸法が大丈夫か、ぐらいの連想はつくはず。さらに、考えなければいけないことは、乗務員が操作するスイッチが窓縁の上にあること。常時使う制御スイッチの他に、非常時用の予備(保安)ブレーキやパンタ下降のスイッチもある。その操作感が全て変わってしまう。採用者の体格が制約を受ける。それと、大きな心配は朝日と夕陽。京津線はほぼ東西に走っているから、長時間、太陽光をまともに食らう。

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 解っているのか、と詰問したものの無理。みんなサラリーマン。見映えを検討している余裕は無くて、頭の中だけで考えて図面を書き換えた。ただ、言われたほどには上げなかったはず。まあ、設計屋の矜持。

 この日除け(612)は、500のときに考案したもの。京阪線で使われていたエレメントを2組使っている。要は、スライド機構を廃した4節回転連鎖で、学校で習ったとおり。上位置ではアームが一直線に並ぶ死点だから乱れてしまうけれど、下位置なら大丈夫。600では、このアーム長さを伸ばして対応した。不透明のアルミ板にしようかと提案をしたけれど、運転担当からはこれでいいとの返事。いまだに愛用されていて、ホッ。実車写真は2014年7月26日撮影

【追記1】JR東の次世代標準型電車E235系の記事(とれいん誌2015年6月号)を読んでいたら、「身長150cmの乗務員」というフレーズがあった。そーらみろ。2015-05-26

【追記2】1次車新製時のパンフレットが出てきた。大きさは折りたたんでA5版。2020-07-12
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コメント

最近は女性乗務員さんが増えたので、160cm以下の身長の人の運転室機器操作性が問題になっており、悩ましさ増大です、上の方のNFBに手が届かないとか、笛弁に足が届かず踏めないとか。。(ノд・。)

>>155cmを想定していない機器配置は怠慢でしょうね。悩ましいのは150cmでした。それと胴回り、利き手、腕力あたり。新車検討用の実寸大モックアップは、様々な関係者に弄って欲しいからと、私のときは車庫に置きました【ワークスK】

投稿: ひかり.こだま | 2014/08/25 16:57

先日、JR播但線で女性乗務員に当たったのですが、国鉄設計の115系はよっぽどバネが固いのかスイッチが操作できずに発車が遅れるというちょっとした事件に遭遇しました。無線で助けを呼んでいましたが結局は自力で何とかできたようです。
現代のインバータ車ならマスコンやブレーキもタッチパネルにだってできてしまうのですが、わざと重いレバーを採用しているのも面白いです。

投稿: YUNO | 2014/08/27 09:05

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