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2015/02/27

アサーン40'ボックスカーの初期製品(3)

Athearn's 40' slide-door boxcars, early-production part 3: An unassembled kit and diplomatics

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 キット状態のままのモデルを頂戴した。伝説のイエローボックス。もう一箱は40フィート・スチール・リーファー。
 AMTK223氏は「1986年頃にロサンゼルスの模型屋。安かった」と言われるが、それは比較の対象による。【画像はクリックで拡大】

 リーファーも面白いのだけれど、とりあえずボックスカー。開けてみると、完全なミント、新品。ペンシルベニア鉄道の"PRR 29083"。

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 射出成型のスプルーまで入っている。手ブレーキ・ハンドルが何故か2つ。床板の両端には湯口の跡。
 ドア・レールはやはり別部品の上下同一モールドで、無塗装。さらに屋根上歩み板まで無塗装。両者の歪みも目立つ。

 注目のドア・レール取付部分の嵌まり込みは、両端に丸孔で、中央にスリット。上の丸は、貫通していないから“穴”。向かって左下の孔の余肉が薄くて割れそう。接着剤の流し方が肝要。

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 あれっ! 色が違う。奥は前々回にお見せしたもの。

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 手前のキットはローズピンク。実車はどっちなんだろう。

 紙袋は未開封。中は台車とカプラー。台車はダイキャストで、バラバラ。しかし、当時の日本製品のようなシーズンクラックは皆無(過去記事 正しくは「ジンク・ペスト」という)。

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 コイルバネが2種類で、長い方がカプラー用。短い方は枕バネ用で、必要数8本よりも多くて12本。

 次は説明書。

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 台車の枕バネがコイルでは無くて、奇妙な形のブロック。下辺辺りに並んでいるテキストでは触れられていない。

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 おっ、最下段に曰く、「ウエイト鋼板は別売。小売店で買え」だって。

 こりゃあ、気合を入れないと組めない。ポイントはウエイトと塗料。特に塗料は悩む。

 さて次は、古文書学。当然、まずMR誌を調べる。
 最初の広告は、1957年4月号。未塗装のボックスカーとカブースの写真が載っている。台車付が、たったの89セント。

Mr195704p7

 同社は1954年にグローブ・モデルズのブランドでF7ディーゼル機を売り出して3年目。本格的にプラスチック製品を展開する先兵のテイ。この後に、箱画に描かれたバリエーションの、EMD GP9ロードスィッチャー、4台車フラットカー、3ドームタンクカー、リーファー、ステンレス客車4種を次々と発売。

 ボックスカーで塗装済の登場は翌々月の6月号。キットが1.29ドル、完成品が1.98ドル。ラカワナ、バーリントン、C&NW、UPの4種。塗色がボックスカーレッドで、レタリングが1色という共通点。

 製品紹介は、カブースと共に次の7月号。ここで初めて、ウエイト鋼板の別売が知れる。
 そして、台車のバネは"small rubber casting"。填め込み難いから、モデラーはコイルバネを調達せよ、みたいなことが書いてある(ようだ)。

 そして注目は、同じページのケーディー社の広告。なんと、アサーン貨車専用のカプラー。
 マグネティックではないけれど、復元用板バネなど、後年の標準型#5を彷彿。

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 このカプラーの製品紹介は10月号。バーニー製品ではポケット上下寸法が大きいので厚紙を噛ませとある。

 全くの妄想を一つ。
 この時点でHOのプラスチック量産製品は、バーニー社をはじめ、マンチュア/タイコ、MDCラウンドハウス、フライッシュマン、レベル、ペンライン、ACギルバートなどが先行していたはず。そこへアサーンが割って入って、さらに凌駕できた理由は、このケーディーカプラーとの共同作戦ではなかったのか。
 ウエイト鋼板を別売としたのは、販売戦略上でインパクトのある価格を決めてしまっていて、それをクリアするための苦肉の策。

 閑話休題。同じ10月号のアサーン広告には、ウエイトの値段。各車種用とも20セント。ボックスカーは、B&Mの青および黒、WP、SP、PRR、NHを追加。

 ところで、古いアサーン製品といえば、バイブルがある。もう9年も前に紹介した"Standard Guide to Athearn Model Trains"1998年刊(ブログ紹介記事)。
 ペンシーの該当製品はp22にあって、オレンジで囲ったあたり。1957年10月が最初の発売と判るくらい。塗色も確たることはウヤムヤ。

Athearn_guide_p22

 ネット上の情報は、Tony Cook氏のサイトと、HOseekerのカタログ・コレクション
 これらの初期製品が、後年製品に衣替えされた時期を知りたいのだが、ハッキリしない。頂いた箱に"JAN 12 1966"と読めるラベルが貼ってあるけれど、1966年にこのモデルがNew Stockで売られていたということなのだろうか。

 ボックスカーのプロトタイプは、“無い”ということが定説。強いてあげると、AAR 1937年標準仕様の車内高さ10フィートを10フィート4インチへアップしたATSFやICの車が似ている、と、とれいん誌1993年10月号p66に糟谷卓正氏が書かれている。ネットでは、Trains.comフォーラムなど。
 ボックスカーは同じように見えて、極めようとすると難しい。

【追記1】古いTMS誌に本製品の紹介記事を再発見した。1962年5月号のp274-275で、1957年の発売開始から5年後。天賞堂に50余種が入荷という。
 キットの中身の写真をグッと睨むと、カプラーポケットのフタが薄軟鋼板で、引戸はグリップ式など、後年の構成と一緒。ウエイトの鉄板も含まれている。

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 また、引戸レールと屋根歩み板が車体と同色となって、車体周りは完成済(右写真は当方入手のNH車)。
 一方、台車は「ダイカスト」と記載されている。デルリンなどのポリアセタールがモデルで使われ出したのは1960年頃なので、微妙な時期といえる。

 ちなみに、このNH車を指して「濃い柿色」なる表現には唸る。「床下器具の配列に誤り」など、評価は適切。MR誌以上に見る目、あるいは筆致は確か。NMRAの会報などをツブサに読んだ結果なのだろう。

 ところで記事の表題が「米国アサーン社製品、貨車」となっている。また、2ヶ月前となる3月号で、天賞堂の広告が次。これで、"Athearn"の読み方を「アサーン」に定着させてしまった犯人が知れる。2015-06-15

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【追記2】MRH誌の掲示板に「PRR貨車の色と題する記事を書きたい」という発言があった(MRH forum)。大方の想像通り、議論は四方八方へ……。2019-10-18

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コメント

70年代の終わりに、故椙山氏の依頼で、この種のキットを200箱以上輸入しました。
その時、KadeeのNo.5も同数買いました。これがAthearn専用であったことに感慨を覚えました。
また、部品を接着するときに、合わせ面の塗料を剥がせという指示があり、それを守らないと全て剥がれてしまうと聞きました。

ところで、御掲載のKadeeの広告ですが、Athernと云うつづりになっていますね。珍しい間違いです。

PRRの塗色については、brass_solderがお詳しいですよ。

>>小山田美術館に置かれているPAディーゼル機や客車がそれかもしれませんね。1970年代の終りというと椙山(すぎやま)満氏はMR誌へのレイアウト記事投稿(1974年11月号)やSPUD紹介(1981年4月号)と、熱が入っておられた頃でしょうか。【ワークスK】

投稿: dda40x | 2015/02/27 07:28

もちろん実物を見たことは無いんですが、
モーニングサン出版のカラー写真集で見た限りでは、このシャドゥキーストーンのスキームだとローズピンクの方が近いです。
実はグリーンマックスの西武ラズベリー(赤13号近似)がけっこう似てると思うんですよ(笑
それにしても良いのが(しかもミント!)手に入りましたね。
羨ましい・・・

>>御教示多謝。昔でも関心をお持ちの方はおられたんですね。今となってはコレクション的希少性は失われたものの、我が手の中に入ったからには製品本来の持つ価値をシッカリと発揮させてやりたいと考えています。赤13号といえば交直流電気車用ですか。西武色共々、探して見ます【ワークスK】

投稿: brass_solder | 2015/02/27 11:02

> もちろん実物を見たことは無いんですが、
幸いにも、実物をペンシルバニア鉄道博物館で見ました。(ここは、ペンシルバニアの鉄道博物館、であって必ずしもペンシルバニア鉄道の博物館ではないのですが、もちろん PRR ものが大半です)

で、色の感じなのですが、塗った時はどっちかというと、後ろに近いのですが (だから博物館でリストアした奴はこの感じ)、この色は退色が激しくて、手前に近い色になります。実物から取った、退色サンプルがこの博物館のリストア工場にあって、学芸員があーでもないこーでもない、とやってました。ちなみに、この色は (PRR のいつもの流儀で) ボックスカーレッドではなく FCC (Freight Car Color) と呼ばれます。

>>なるほど、そういうわけで色名がコンガラガっているんですね。恐るべしペンシー【ワークスK】

投稿: 稲葉 清高 | 2015/03/14 12:58

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