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2015/12/28

フカヒレ・イコライザー最適設計法

How to plan the Shark-fin equalizer system for four-wheel equipments

Tms201601 我が国趣味界の草分け的存在である鉄道模型趣味誌が888号を迎えた。1947年創刊で69年目、代表者の石橋春生氏はずっと関わっているのだから凄い。

 この2016年1月号に、「2軸貨車にフカひれイコライザーを組み込む」と題する、ゆうえん・こうじ氏の記事が掲載された。
 回転軸が斜めであることが解説されている。一度、作ってみたい方もおられるはず。そういう方が悩まれるであろう課題をいくつか、考えてみた。【画像はクリックで拡大】

Fig91

 この原理自体は2012年7月に書いているので、初めての方はまずそちらを読んでいただきたい。解り易い説明はもちろん、ゆうえん氏のサイトにある。以下は、それを理解された上での話。

(1)ネジリ軸の傾き角度

 いざ作ろうとしたときには、まず全体の寸法を決めなければならない。上の図で、C点とC'点、それにO点は自ずと定まる。
 問題はD点の位置。A、B点は、その後に決まる。ロンビック・イコライザーとは異なるから、B点が車体中央とは限らない。
 適当でいいだろうといっても、目安は欲しい。

 必要なことは、O点で2つのネジリ軸が確実に連動すること。ならば、O点の上下動が大きくなるように採ればよい。すなわち、リンクD-Oの長さ(F)を可能な限り長くする。

 幾何学的にシミュレートをすれば、O-D長が、O-C長近くまで可能なことがわかる。例えば、次図のような位置関係が考えられる。興味深いのはDとD'点の取りえる軌跡で、それぞれO-Cと、O-C'を直径とする半円上となる。これ、中学で習う直角三角形と外接円の関係。
 もちろん、このD点、それにネジリ軸やリンクの形状は、仮想で構わない。

Img134z_2

 ここでリンクは、車輪の上下動と連動する。
 F/Eという、両者の比率が決まる。そしてEは、車輪の上下動が垂直と見做せる長さを必要とする。また、比率が大きくなり過ぎれば車輪の動きが鈍くなって本末転倒。

 様々な要素が絡み合って確かな数字は出せない。ザクっとみて、角度Gは30-45度あたりが適当か。

(2)支点の位置

 D点が決まったら、次はA点とB点。
 C-A間を伸ばす発想はなかなか出てこないけれど、ここが肝心カナメ。
 仮にA点をC点に一致させて全荷重を掛けたとしよう。すると、B点の方は荷重ゼロ。このB点での挙動を想像すれば……、軸が孔の中で踊る。
 すなわち、O点がフラつく。この機構の原理は、O点の上下動で連動させることなのだから、意味が無くなってしまう。O点が安定しないなら、または、ドライバーの先などで軽く突ついて動くようなら、ここがガン。原理上、O点が一義的に決まることを忘れてはならない。
 A点とB点には共にシッカリと荷重を掛けて(片効きとして)、ネジリ軸の位置を決め込むこと。それには、C-Aの距離を大きく採らなければならない。2016-01-12

 さらに考えるべきは、車体を支えるのがA、B、A'、B'の4点という事実。車体の傾きがこの4点で決まるということ。傾き易いのは左右。前後はそれほどでもない。
 その精度を上げる簡単な手段は、B-Aと、B'-A'をできるだけ長くとること。

(3)軸受の構造

 ネジリ軸の回転角度は、ほんのわずか。
 精度よく、かつ軽く動かしたいという要求を考え合わせると、片効きのA点とB点にはナイフエッジを思い付く。でも製作が難しい。アマチュアが可能なものはピボットくらい。単なる丸孔でも、回転抵抗を下げるために軸径をなるべく細くすればよい。ただし、軸全体の剛性は確保したい。なぜなら、この軸で車体を支える。軸の曲げタワミに弾性を期待すると、イコライザーの作用を弱めてしまう。

 一方、リンク結節点Oに関しては、リンク長の変動を無視できるので、長穴にする必要は無い。軸受の向きは元来、ネジリ軸に平行とするのが自然。レールに平行でも良いのは、角度Gが小さな場合のみ。

 このO点が、他のA、B、A'、B'の4点と決定的に異なることは、“両効き”という機能。
 4点は荷重を受けるだけで、重力方向にしか効かない。ところが、O点は両方向に力を伝える。すなわち、軸と軸穴の径差=ガタが命取りとなる。一方で、軽く動く必要がある。
 白状すると、当方の作例の欠陥がこれ。最初から構造を考えておかないと、出来てからの調整ではどうにもならない。

 そして、D-D'間の寸法精度が求められる。
 ならば、B点だけ、位置を微調整できる構造とするのはどうだろうか。併せて上下寸法を調整可能としておけば、車体傾斜も修正できる。車体傾斜は、ネジリ軸を曲げても修正できる。
 以前にも述べたように、2本のネジリ軸は厳密な平行でなくてもよいし、2本のリンクは等しい長さである必要もサラサラ無いので、修正によってこれらが狂ってもよい。

(4)リンクの角度

98dsc05188

 ネジリ軸を仮想変形させて中梁に見立て、シルエットを楽しみたいという欲求はあるだろうし、また、精度が悪くてO点が下がり見苦しい、あるいは、この画のようにO点が上がって床下面に当たるということがありえる。
 その調整に、B点およびB'点を上下させてもいいのだけれど、それと同時に車体が傾いてしまう。リンクを曲げる方が楽。ということは、リンクがそれなりの構造でなければならない。要は、ネジリ軸と車軸との相対角度を調整可能にしておくということ。2016-01-14

(5)車両の重量

 以上の機構を確実に作動させるためには、ある程度の車体重量を与えなければならない、と読者は考えるかもしれない。しかし、それが大きくなれば、この機構が無くても脱線しなくなる。わざわざ面倒なものを組み込む意味が無くなるのだ。
 よって挑戦課題としては、いかに軽く作って、無事に走せるかだろう。精密で繊細な機構を実現するためには、十分な事前検討が必要で、完成時にも注意深く調整しなければならない。
 ただし軽い車両は、連結器力を考慮すると連結両数に限度が生じる。速度や曲線半径にもよるけれど、ざっと考えて、ウエイト無しの適正は2、3両。限度は数両といったあたり。事故の多くは推進運転で起こる。
 一概に脱線といっても、レールへの追従性以外に充足すべき様々な要件がある。誤解を怖れずに書けば、このイコライザーが意味を持つのは、小さなレイアウトで連結両数が限られ、機関車が非力、平面性が相対的に悪い軌道。端的にいうと、プロト87などの低フランジ用の線路だろう。もちろん、工作派に構造に拘るという楽しみがあることは否定できない。
 この見極めこそが一番重要な設計の根幹。コンセプト、指針と言える。

 またここに示した考慮を無視してラフに作ると、皮肉にも安定して走行するように見えるはずだ。スラック=ガタが各部の動きを許容して、変に小競りを発生しないから不都合が起きにくい。車輪がわずかに浮いたところで、滅多に脱線するものでは無いし、浮いたこと自体を確認する術(すべ)も無い。
 特にボギー車の場合は関節が多いから、可動部全てに相応の精度を与えないと、結果としてラフなものしか出来上がらない。これは、ロンビックなどにも言える。凝りに凝ったスライド機構やギアなどは、時計並みの精密技術を駆使して初めて機能する。さらに機関車は重量を大とするから、その効果を検証しにくい。また、枕バネであれ軸バネであれ、ローリングに影響する弾性要素を介しているならば、それは紛い物ということになる。


 まあ、勝手なことを書いた。興味本位で一度試作するくらいならまだしも、各鉄道の標準構造に採用するのはどうかと思う、と極論しておこう。以前も申し上げたように、2軸貨車や2軸台車は軸受固定で十分という先入観が当方にはある。
 いずれにしろ、これを作られる場合は、先例を鵜呑みにせず、原理、構造を透察し、さらにご自身の方向性との整合をよく検討されることをお勧めする。

11dsc05161
2013年2月の試作品。ポリスチレンの1mm径軸受などが情けないけれど、普通の線路だったら快調に走る。無論、イコライザーの効果とは断言できない。その反省を踏まえて、この記事を書いた。

 ところで今回、このイコライザーに対する呼称を改めた。従来は、名が体を表していないという理由で「ネジレ棒式」としていたけれど、マスメディアに掲載されたことだし、個性的な名を良しとした。過去の記事も順次、書き直している。

【追記1】大事なことを書き漏らしていた。数学的な平面定義のことだ。
 ご存知のように、平面は3つの点で決まる。よって 、模型に3点支持が多く採用される。ロンビック・イコライザーは4点だけれど、中点連結定理という特殊な場合。
 では、このフカヒレが何なのかと疑問が湧く。

【以下は完全な勘違い。正しくは次回記事へ

 当方の想定答案は、「一義的には定義されていない」
 2本のネジリ軸は連動するけれど、それらの絶対的角度は決まらない。すなわち、自由に動く。

 3年前の試作モデルを疑似平心皿式とした隠れた目的がこれで、安定となるポジションを設けたつもり。過去記事でいうとED14の台車が抱えている問題と同様という感じ。
 自由度の概念で解こうとしたけれど、上手くいかず、いつしか忘れていた。

 重力加速度は一定だから車体重量によって安定するはずがないし、ならば弾性要素はどうだろうかと考えて概念図を描いてみた。要は、2本のネジリ軸に回転角度比例のトーションを加えれば、どこかに落ち着くというアイデア。

Img607k

 ここで気が付いた。これ、Brass solder氏の「Gキャンセラー」だ(該当記事)。ただし、バネは両方のネジリ軸に掛けている。

 重いイコライザーの垂れ下がりを補正するものとばかり思っていたけれど、違う。垂れ下がった原因は、製作誤差ではない。
 リンクの位置関係が自由に動くということ、すなわち、リンク機構だけでは車体姿勢の平面が一義的に定義されないことを示している。

 さらにこれ、O点は片効きの軸受となるから、動作精度の問題も解消してしまう。

 同様の機構はどれも同じ問題をはらんでいるはず。
 どなたか、もう少しスッキリと解いていただけないだろうか。2016-01-07

【追記2】どうにも気になって眠れず、続けてもう一席(笑) 題名は振りかぶって「幾何学原理」!! 
 それを踏まえて、本記事中の「(2)支点の位置」を手直し、A点の重要性を強く打ち出した。2016-01-12 また、「(4)リンクの角度」を追加。2016-01-14

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コメント

私の考えでは、A点をC点に一致させて全荷重を掛けた方が回転軸には荷重がかからないので回転軸が細く出来るし、B点の回転軸受けも薄板でよくなるので回転抵抗が小さくなるのでよいと思うのですがいかがでしょうか?
また私はB点の軸受と軸のガタは最小にしています。TMSの作例では0.8mmドリルであけた穴に0.8mm真鍮線の作用ロッドを突っ込んでいます。

>>ネジリ軸の回転抵抗は、AB両点の荷重配分を変更しても、総和は同じです。その質量は、車輪支持構造と一体な訳ですから、多少増加しても性能には影響しません。
 ただし、作動させたい車輪の上下動が0.1-0.01mmほどでなければ、この考慮は不要でしょうか【ワークスK】

投稿: ゆうえん・こうじ | 2016/01/15 21:30

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