ユニバーサル・ジョイントの真実
Pursuing the simplified universal joints for small model railroading technology
掲示板でnortherns484氏が紹介されたように、新しいメーカーが登場した。スケールトレインズScaleTrainsという名前。最初の製品がHOのスーパー・タービンというのだから凄い。創業者のShane Wilson氏はアサーンで働いていた方らしい。
プロモーション・ビデオをつくって大々的に宣伝を始めた。その中にカットモデルの3D画像が出て来る。掲示板での話題は、ユニバーサル・ジョイント。
ピンの角度が間違っているという。【画像はクリックで拡大】
模式的には次のように描くことができる。
第1図 Product model appeared in the YouTube video
次図が正しいと、YUNO、railtruck両氏がコメントを寄せられた。YS氏からはメール。
第2図 Correct model said by some modelers
ユニバーサル・ジョイント本来の構造は次。
必要なことは、両軸が1回転中のどの位置、角度でも同じ回転速度で回ること。つまり等速。ところが、スパイダー(十字形部品、ジンバル)が1つでは非等速となる。よって、2つのスパイダーを互いに90度、違えて、非等速を相殺する。この図でいえば、2つの赤の軸が90度、ずらされているということ。
解説は、学校の教科書はもちろん、ネット上にも転がっているので、検索してみていただきたい。例えば太陽工機(pdf)や、協和工業のサイト。
これを知らない機械屋はモグリ。世界中でそう。The mechanical engineer without this knowledge is unqualified. It is said all over the world.
お三方の意見は、入力軸と出力軸のアームの位置が同じ向きだからという理由なのだろうか。
ただし、模型は簡略化されている。十字のスパイダーは存在せず、中間軸の両端にピンがあるだけ。
第3図を、90度だけ違えるという原理を踏まえて簡略化すると、次のとおり。
これなら誰にも異論を挟まれない。スプラインは、入出力どちらかのピン長穴を少し延伸するだけで省略できる。ただし、作るのが少し面倒。
当方の想定はこれ。製品どおりの第1図が等価だと考えた。
加えて、同じく90度違いにはオルダム継手(Oldham coupling)がある。図は椿本チエインのサイト(2018年3月で販売終了)から引用。
そして模型は昔からこのスタイル。次は半世紀以上も前の天賞堂製品。
皆さんが正しいとされる第2図は、自明な第4図とは異なる。説明を探したけれど、ちゃんとしたものは見当たらない。言及はあっても、単に同一と見做しているだけ。
これをユニバーサル・ジョイントと呼べるのか、という問いは一先ず置いて、前例がないなら、やってやろうじゃないか、と思い立った。ここで、一般的なほうを正規型、模型で採用されるほうを簡易型と呼ぶ。
この簡易型の“入”力軸と中間軸との回転速度比の計算は、すこぶる簡単。
まず2つの角度を求める方程式をいくつか導く。次に角度を変数として微分を行い、その結果を解けば、たちどころに答えが出る……。
ははっ、錆びついた頭では無理。それよりも遥かに優れた脳内シミュレーターを使おう(笑) 第2図をグッと睨む。
この図のピンが水平となったとき(0度)に、回転速度比が“1プラス”(最“大”)となる。極値をとることは自明。
そして、ピンが直立のとき(90度)がマイナス(最小)。再び水平のとき(180度)に最大。直立(270度)で最小。1回転(360度)して最大と読める。そう、単に正規型をなぞっただけ。グラフにすると次の赤カーブ。まあ、サイン、コサインに似ている。
次に中間軸と“出”力軸の関係を睨むと、ピン水平(0度)でマイナス=最“小”……? えええっ。想定と違う。“入”力軸・中間軸と同じと考えていたのに、逆……。それが青カーブ。
うぅぅむ。
そんな話を偶々お会いしたAMTK223氏にしたら、ややあって、「対称であるぞよ」との御宣託。
おおっ!!
なるほど。[入力軸]>>[中間軸]の順序が、出力寄で[中間軸]>>[入力軸]と同一になっている。
これで全てが氷解。正規型も同様の解釈ができる。
【追記:グラフは全くのイメージ。縦軸は“比”ではなくて、“差”。0度の山の高さと、90度の谷の深さが異なるのは、単に感覚。ここでは対称性が既に判明しているので、苦労をしてまで求めていない。これを正しく計算して検証することは、学生の卒業論文に最適。カトーかトミックスと産学共同研究はいかが。2015-12-25】
というわけで、最終的な入出力軸の関係は等速。反論いただいた3氏が正しい。
うぅぅむ。
今まで多くの機械屋が模型を設計してきたのに、間違いを犯しているということ。スケールトレインズにも同じ落とし穴。その理由は、当方の先入観と一緒か。
結果として、無知蒙昧の輩の所業と同じ。情けない。
さて、簡易型がどうして採用されるのかといえば、部品点数の少なさに尽きる。スプライン不要はメリットが大きい。その分、組立も簡単。すなわち、コストが掛からない。
それでいて、幾何学的な機能は正規型と一緒。
一方デメリットは、長穴を往復する丸ピンが4個も。
摩擦、摩耗、面圧と、どれをとっても耐荷重性や耐久性に疑問符が付く。スライド機構を避けるのは、機械技術者の鉄則。大トルクや高速回転、長時間使用には不適。
ところで、ユニバーサル・ジョイントの入力軸と出力軸は、同一平面内になければならない。よって、両軸は平行ではなく、「八」の字でもよい。
障害は、模型の台車が左右にも首を振り、2軸が同一平面から外れること。また2つの角度もいつも同一とは限らない。
正規型にしろ、簡易型にしろ、正しく継いだところで、限界がある。
ユニバーサル・ジョイントって、古典技術。今は等速機構が幾らでも存在。そろそろ決別すべき……、などと綴っていたら、廣瀬渉氏より情報があった。「カトーは六角!」 しかも、台車寄が十字に見えるという。写真はキハ58用Assy Partsとのこと。だいぶ前の製品。
当方手持ちのEMD F40PHを出してきた。分解するのは怖いから、説明書。むふふっ、モーター寄は同じく6角。ただし台車寄は一文字。
これで等速になるかは不明。
3D製造技術が進歩しているのだから、メーカーには頑張ってほしいもの。
実車の例で知られていないユニバーサル・ジョイントが、中空軸タワミ板継手とTD継手。弾性機素ではあるけれど、プロペラ(スラング?)の位置関係が一緒。前者は、Picco工作工房(WP)というブログが判り易い。後者は、当方が現役時代に描いた図で一目瞭然。
もちろん、すべての条件で等速となるわけではない。また、中間軸は質量があって必ず非等速。超高速には不適切だから、新幹線0系ではWN継手(gear coupling)となったという話。
【追記3】northern484さんが数学的に解析されて、簡易型は正規型と等価だという“当方と同じ結論”(笑)を導かれた(>>All Aboard!)。GREAT! 2018-10-31
【追記1】ウィキペディアの「TD平行カルダン駆動方式」に、新幹線N700系などのグリーン車で採用とあって驚いた。この理由はたぶん、軸バネのタワミによる継手の折れ角。これが大きいと中間体が非等速回転となる。普通車は満空差が大きいけれど、グリーン車は少ない定員を維持できるから小さい。もちろんタワミ板の曲げ疲労も……と解釈できるかな。
ここで気が付いた。TDは位相が一緒。中空軸式も同じとなっている。ユニバーサル・ジョイントとは違う。何たるカン違い。恥ずべき思い込み。
あれっ? どうだったかな。確か、採用のときにメーカーに質問をしたはず。うぅぅむ。答えを覚えていない。歯車比と車両定規については記憶が鮮明。ともかく、これらについてはペンディングということで……2015-12-26 (継手板のタワミというか、曲げ振動だろうか?)
【追記2】2015年末に発売となったラピードRapidoのF40PHを入手した。さっそく部品構成図を開くと、おおっ! ユニバーサル・ジョイントは好ましい位相になっている。これが周知の事実ということなのだろう。2016-02-29
【追記3】カトーの六角継手は,ギアカップリングの一種ではないかと思いついた.WN継手の親戚.2023-12-23
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コメント
カトーの六角穴は製造上の都合で採用されたものだと思います
フライホイールとユニバーサルジョイントを兼用するにはピン溝を掘るより六角穴加工のほうがコストが安くなりますから
それと、最近のカトー製品ではボールになっている部分のピンが4本のものが有るみたいです
>>それは凄い。等速ジョイントはラジコンカーかなんかでは模型化されているかも知れませんね【ワークスK】
投稿: あさもと | 2015/12/24 00:54
機械部品メーカーのウェブサイトに解説があるのを見つけましたが、やや難解です。
http://kyowa-uj.com/prod/tech-info/index.html
Dさんの掲示板にも同じことが書いてありますが、よく見たらワークスKさんもコメントされていますね。
http://dda40x.blog.jp/archives/50394100.html
投稿: YUNO | 2015/12/24 02:19
あ、よく見たらkyowa-ujは協和工業のことで本文中のリンクと同じページを指していますね。うっかりしていました。
Nゲージの台車ですが、軸1と軸3が平行でない場合は等速にならないはずですから、台車がカーブで首を振ったり勾配の入口で傾くと本当はまずいですよね。
部品が軽くて慣性が小さいから問題が出にくいのでしょうね。
>>折れ曲がり角度が小さな範囲では擬似等速で、支障は出ません【ワークスK】
投稿: YUNO | 2015/12/24 02:33
はじめまして、いつも興味深く拝見させていただいております。
しばらく眺めていて気付いたのですが第4図ですと出力側のジョイントのスパイダーに相当する部分が出力軸に垂直になっているように見えるので、第3図と比べると位相が90度ずれているように思えます。
ですから第2図が第3図の等価になるように思えるのですが…
>>絶対に無いはずと考えていた第4図への異論が出てしまいましたね。弱りました。
なお、このブログ記事のあらすじは、「結果として第2図が正解だけれども、その証明は単純では無い」といったあたりです【ワークスK】
投稿: くま | 2015/12/29 18:06