転換クロスシートの探求(8)
The structure of walkover seats in Japan in the late 1920s
またまた宮崎繁幹氏からコピーが届いた。購入以来“積読”だったという車両史編さん会2004年刊「国鉄構成客車史第1編 オハ31形の一族 上巻」の数ページ分である(右は下巻を示す)。
ああ、あの大判で厚い本か。貴重な図面と解説が満載とはいうものの、おいそれと出せる金額ではなかった。すでに絶版ということなので、必要最小限を引用させてもらうことにする。
この客車系列は1927年-1929年(昭和2-4年)に登場した国鉄最初の鋼製車で魚腹台枠を備えていて重い。アメリカ型でいえばヘビーウエイト客車。17メートル車が2軸で、20メートルが3軸台車を履いた。【画像はクリックで拡大】
まず2等車の転クロ。記述で驚くのは2種類の存在。オロ31(1-18)他が乙種で、オロ31(19-28)他が改良形の丙種と書いてある。後者では座フトンの角度を大きくしたとのことで、以前紹介した「客貨車工学」、鉄道教育研究会著、交友社発行、昭和16年(1941年)初版の図版と同じようだ。
リンクの仕組みが右のポンチ絵で示されている。ただし、これはいただけない。回転ピン4点のうち、背ズリの2点の間隔は、固定の2点よりも広くなければならない。いうなれば逆台形。そうしないと擬似円弧運動にならず、平行運動になってしまう。バスやトラックの窓拭きワイパーがそれ。
座フトンの転換は、我が関係先もこんなだったと思う。すこぶるシンプルだ。
ここで、「乙種と丙種があるなら、甲種はどうした?」と疑問を抱いた貴方は正しい。
6年先行した1921年(大正10年)の木造車ナイロ20500は、これらとは異なる2段傾斜式で、故障が多いので鋼製車では1段傾斜式になったという。残念ながら図面が無く、名称への言及もないけれど、それが甲種なのだろう。
で、その甲種が前回紹介した米国1915年出願特許かもしれない。これ、背モタレを倒すときには、左右のループ取手(照号44)を2つとも引っ張る必要があって面倒。2個イチ座席、すなわちロマンス・シートだと、一人で倒すには少々コツが要りそうだ。
以上のことから、同じ1927年(昭和2年)製の京阪600型が、国鉄の乙種または丙種を採用したことは確実。先行した琵琶湖汽船鉄道100型は絶対に乙種だろう。簡単な構造だから国産かな。米国特許は今のところ抵触しそうなものが見当たらない。
なあんだあ! 京阪は国鉄と同時だったのか。どうして誰も指摘しない。えっ、知らなかったのは私だけか。
先輩から聞いた話では、「特急は国鉄二等車と同じにせよ」が昔の経営者の口癖だった由。どうもオロ31が起源だな。
ということなら、1930年(昭和5年)初版の石井貞次著「客貨車」が示すスライド式は一体なんなのだろう。
ナゾがすべて解けたわけではないか。
■次は2等車用固定座席の図面。見るからにフカフカ。
17m オロ30(オロ30600)「100年の国鉄車両2」p194から引用
■3等車用固定座席についても興味深い記述があった。
オハ31(1, 2)他は1925年(大正14年)木造車と同じで、次図のとおり背ズリが木製短冊張りだった。オハ31(3-302)他は短冊を合板とした。オハ31(303-511)他は腰掛受を1本脚として床清掃を容易とした等々。
17m オハ31(オハ32000)「100年の国鉄車両2」p194から引用
それにしてもこの本、90年も昔のことが手に取るように書かれていて唖然。国鉄図面を丹念に読み込めば判るのだろうか。それとも何か記録が残っていたのだろうか。こういう情報が、近年の模型製品のレベルを上げているのだろう。一方でそれが、実車を実際に知っていた昔のモデラーの作品よりもリアルというのは何か不思議な気がする。鉄道百年だった40年前には、出るもの出るものを軒並み買いこんだものだったけどなあ。
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コメント
転クロの 謎に迫りし 鉄友を
助けるものは 積読のヤマ
>>御一首、痛み入りました。もうこれで終わりですよね【ワークスK】
投稿: 宮崎 繁幹 | 2018/06/06 21:46