トリックスの40フィート・ボックスカー
封を切っておどろいた。ダイキャストで出来た床板が割れている。手で持っただけで崩れるほど脆い。これは亜鉛ペスト、我が国でいうシーズンクラックだ。曲がっているプラスチック車体の屋根は、長い年月によるクリープ変形だろう。メーカーはどこかと、MRフォーラムで尋ねたら、直ぐにトリックス製だと答えが返って来た。およっ! それなら1両持っている。10年ほど箱に入ったまま‥‥というわけで、引っ張り出してきたがこちらのSAL車は無事だった。
修理方法をしばらく思案。側出入り口の上がりカマチが切れているので、一度、これをツナいでみた。ところが、屋根が曲がったまま。あちゃっ! 車体が延びている。寸法を測ると、屋根の高さ位置より床の高さ位置の方が0.4ミリも長い。なるほど、ダイキャストが延ばしたのだ! 車体幅も0.2ミリほど広くなっているが、こっちの修正は無理。車体長は、上がりカマチを切り詰めれば何とかなるだろうということで、やってみた。
1.0×10ミリのポリスチレン帯材を2本、長さ140.4ミリに切り出す。この長さは正常なSAL車の内寸に合わせた。床上面2ミリに罫書き線を入れて、これに沿って1本の片方ずつを貼り付けた。10分間ほど手で固定していたらクッついた。車体シェルの材質はABS樹脂だから接着剤はMEKが効く。
これで側板の長方形は見事に真っ直ぐとなった。ただし、屋根の頭頂部は窪んだまま。こちらの修正は難しい。
四隅のステップstirrupは0.4ミリのリン青銅線を曲げて、エポキシ系接着剤で取り付けた。こういう微妙な針金細工はリン青銅線なればこそ。
次は床板。厚さは1.5ミリがちょうど良い。この上面に補強で1.2ミリを接着し、さらにアサーンBB用1.5ミリウエイト鉄板を両面テープで貼り付ける。
魚骨フレームは、2ミリ延びていた。両端で1ミリずつを切り詰める。切り取ったボルスターは所定の位置にネジ止め。これ、サラ小ネジM1.7なので、1.4ミリの下孔にセルフタップ。床板にはヒン曲がった中梁を抑え込むためにあらかじめガイドとなる幅3ミリのスチレン板を貼った。枕梁直近の横梁は側板のタブに位置が合わないため、切り取っておいて後で接着(向きがあるのだけれど、間違えた。が、無問題)。側出入り口部の切欠きは引戸を可動とするためではあるものの、開けても帯板やウエイト鉄板が見えるからそうする効能は無い。
ブレーキの配管とリギングは、たぶんポリアセタール製。タボを小穴に差し込んで固定する方式だけれど、上手くいかない。そこで、0.4ミリのリン青銅線をU字形に曲げて3か所押さえた。列車管は0.6ミリのリン青銅線だった。欠品の空気ダメは、適当に補充。ここでツヤ消しの黒をバーッと吹き付けた。ポリアセタールでも何とかなるだろう。
台車の取付は、車体枕梁に仕込まれていたナットを使わず、小ワッシャをかましてナベ小ネジM2×8で床板へねじ込んだ(ネジの掛かり代3.4ミリ)。カプラーは下シャンク。
手前のSAL車は伸縮カプラー付きのまま。アメリカのファンにとってはありがた迷惑なようだ。
>>コレクションは"Cascade Green Forever!"
なお、シーズンクラックといういい方は明らかな間違い。向こうの連中は"zinc pest"=亜鉛害虫、あるいは"Zamak rot"=ザマック合金腐食と呼んでいる。産業界では粒間腐食。英語では "intercrystalline corrosion" か、"intergranular corrosion"(ステンレスの粒界腐食とどう違う?)。この辺りを調べた記事は15年前の「ダイキャストとシーズン・クラック」を乞う御拝読。私が悩んで相談したMRフォーラムはここ。2005-2006年の製造分が危ないといっている。
■トリックスは、1997年にメルクリン傘下となって同グループの2線式HOのブランドとして使われた。2002年には米国プロトタイプに手を伸ばし、ビッグボーイやGG-1など鉄道黄金期の車両を揃えた。特にUP=ユニオン・パシフィック鉄道には肩入れして、この1937年AAR仕様シングルドア車はB-50-24などという型式で、ダブルドア車は自動車運搬用のA-40-16だという。他にストックカーS-40-12やカブースCA-3/4もUPで、リーファーは関連会社PFEのR-40-14らしい。Steam Era Freight Cars
しかし、アメリカ型からは2007年に撤退したようだ。
そりゃあそうだろう。このボックスカーをみても無駄なところが多い。いくら中国が低賃金だったといっても不必要なコストの掛け過ぎだ。このあたり、1990年代後半に発売されたアーテルErtl製品を連想させる。作り手は同じかもしれない。定価が1両27.50ドルで、3両だと121.50ドルというのは、実売価格ではないにしても理不尽だし、PA-1の隙間のない背中合わせの写真を見たときに、こりゃあモデラーの気持ちがわかっていないなと思ったものだ。メーカーにとっても我々にも不幸だった。
■メールマガジンのトラパシ鉄道模型通信は発行元メルマの事情によりこの号をもって終了した。2001年以来19年、733号のご愛読に感謝を申し上げる。引き続きブログやコレクション、掲示板をよろしくお願いする。
【追記1】MR誌にトリックスの製品紹介とグレードアップ記事を拾っておく。
2002年 4月号 p16-17 UPビッグボーイ
2003年12月号 p26-28 DDボックスカーとリーファー
2004年 7月号 p100-102 USRA 2-8-2
2005年 2月号 p104, p28-30 NYCカブースの製品紹介と改良
2005年 8月号 p76-79 UPカブース・アップグレード
2006年 1月号 p100-101 PRR GG-1
2006年 3月号 p109 PRR N5cカブース
2つのカブース改良記事は共にカプラーを固定化している。2020-04-23
【追記3】2020年秋、メルクリン・トリックスがBig Boy 4014を発売した。オイルテンダーを奮発して4014号機に特化している。2019年5月のイベントにはだいぶ遅れたけれど、その後も同機はあちこちに出没しているから、六日の菖蒲十日の菊にはならないかもしれない。いずれにしろ5年10年と長い目で見て売り続ける必要ありと思うなあ。画像はMR誌2020年11月号p13。実売価格はDCC/Soundがあちらで1,000ドル(Walthers)、我が国では15万円超。2020-12-12
【追記2】Brass_Solderさんが、同じ症状のボックスカーのリペア―を始められた。メルクリン・ブランドのPRRスキーム3両セット。その手法は私とは若干異なり、セカンド・オピニオンといったところ。ブログ“Brass_Solderのごにょごにょ”。2020-08-17
メルクリン台車の車輪は軸長が北米仕様よりも短く、代品を探すのに難儀したとのこと(2020-12-26)。当方のトリックス製も同じく24.4-24.5ミリだった。こういうところも商売が長続きしなかった理由なんだろう。2020-12-27
| 固定リンク
「ボックスカー・アトランダム」カテゴリの記事
- アーテルErtlの無駄にすごいボックスカー(2024.05.03)
- Globeの木材金属混成キット 40'オートカー(2024.03.23)
- MDCのCP Railヒーターカー(2024.03.04)
- アサーンの86'ハイキューブ・ボックスカー(4)(2020.09.25)
- カーラインの高級40フィート・ボックスカー(2020.08.24)
「ジャンク弄りは至上の娯楽」カテゴリの記事
- Globeの木材金属混成キット 40'オートカー(2024.03.23)
- TycoのRalston Purinaビルボードリーファー(2024.03.15)
- MDCのCP Railヒーターカー(2024.03.04)
- トリックスの40フィート・ボックスカー(2020.01.31)
- 珠玉のミニ・ハイキューブ・ボックスカー(6)(2020.01.29)
コメント