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2021/01/01

アメリカ型HOの現在過去未来

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1. ビンテージ物の値上がり理由

「ここ10年でビンテージHOは高騰したか?」と問うスレッドがMRフォーラムに立った。「トレインショーで見かける」と注釈が付くから、それはアサーンやタイコというプラスチック製の普及品レベルを指す。コメントはほとんどが同意。アサーンのブルーボックス13~5ドルが、10~15ドルになったといったあたり。理由の詮索では、世の中一般のインフレ傾向だとか、ファンの世代交代等々が挙がる。

私に思うところがあって2つほど発言した。けれど賛同は全く得られなかった。リプライが付いたところで枝葉に対する反応。まあ私の語学力が大きく影響している。で、ここに披露してみよう。その主張の根幹は3つ。まず新製品の値上がり。次に流通経路の変化。そして知識の普及だ。

(1-1)新製品の値上がり

第7次掲示板でお伝えしたとおり、バックマンの40フィート・ハイキューブボックスカーが45ドルとアナウンスされた。50年前はたった3ドル。その間、金型が進歩を遂げ、印刷は繊細になり、またカプラーはナックル型に、車輪は金属製へ変わっている。物価上昇もある。しかしこの15倍という差は異様だ。特に2010年にインターマウンテン製品で計算したら、キットが組立済になったにもかかわらず中国化で値段が下がっていたから、このところの上昇率は甚大。もちろん、原因は製造国でのコストアップが大きい。上海の街中風景を眺めれば生活レベルが先進国に追いつき人件費もそれなりになっているはず。そして人民元の対米レート上昇に加えて昨今の米中貿易戦争だ。我々が経験した日米貿易摩擦の比ではない。まあ、新製品価格が上がらない方が不自然だ。

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バックマン・カタログ2021年版p102(配置変更)

その結果、趣味人が中古市場へ流れるというのは、ごく自然だろう。誰もが高機能のDCCやサウンドの装備、フルディテールを欲するわけでもない。私は数十年前にアメリカ型モデルの安さとカラフルさに感激した。今も変わらずそれで充分というファンの存在は当たり前。

 (1-2)流通経路の変化

このMRフォーラムのスレッドには、トレインショーやスワップミートの話ばかりが出てくる。そう、日本の我々には馴染みが少ないが、あちらでは収集品の処分方法としてこういう催しが結構使われる。自宅でのガレージ・セールもある。そのような場ではノリで取引が成立することが多い。要はバナナの叩き売りだ。売れ残って持ち帰るなんて下策中の下策。買い手が限定されているからそういう状況になる。会場に足を運んだ中で出品物に興味を持つ者はほんの一握り。よって、実際に品物を保有する売り手が弱く、買い手が強いのは道理だ。

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2008年のO Scale West会場

また模型店に置かれた中古品も一緒。現品限りな訳だから顧客との邂逅は一期一会。店頭に足を運ぶ人数は限られている。だから値段は安くせざるを得ない。

ところがインターネット・オークションは立場が逆だ。買い手は全米、否、我々を含めて全世界にいる。終了時刻が決まっているから必死だ。ここのところが同じインターネットでも店舗による販売と大きく異なる。どうしても欲しいとなればオークションだから吊り上がる。次からはそれが相場として定着する。あるいは売り手の期待値となる。

 (1-3)知識の普及

しばらく前にここで香港クラウンの貨車を紹介した。私の思いは「こういうメーカーがあった。手を出したら苦労するよ」てなあたり。でも皆さんの記憶に確実に残ったはず。オークションに出品されれば「あれか!」となる。そして出来心でクリックしてしまうこともあるだろう。

Hoc20174q_2 こういうモデルを専門に扱う雑誌が2017年創刊のHOコレクターで、今年は5年目だ。この時代に紙だなんて、と私は直ぐにギブアップすると思っていた。
 掲載記事で、リバロッシがアメリカ市場へ参入した経緯を知った。ドッグサイドは最初、創業者のアレッサンドロ・ロッシが好きな機関車ということでフェノール樹脂で作っただけ。輸出は考えていなかったと聞くと、いやが上にも興味が出る。そして、そのブツが中古市場に登場すれば結果は明白だ。

以上、新製品の値上がり、流通経路の変化、知識の普及という3点が私の考えたビンテージHOの価格急騰説だ。ここ1年は新型コロナ禍で拍車がかかった。 

一方、気になっているのは地域クラブの衰退。歴史あるコミュニティがなくなっていく。模型店の消滅の影響もあるだろう。もちろん統計的な裏付けが取れている訳ではなくて単なる思い込み。また、ネット掲示板に初歩的な問い掛けが増えている。先輩からノウハウが伝承されなくなっている。また雑誌や解説書を買わない。下手をすれば、疑問や知識をネットで検索することもできない。昨年の大統領選挙の有様を見聞きしていると、彼の国の文化が心配になってくる。なお、MRフォーラムの当該スレッドはここ

2. 過去の流れ

あくまで私個人の流儀で、今までアメリカ型HOのたどってきた道を振り返ってみたい。

HOスケールの発生は1930年代。戦争を挟んで主にOゲージの製法を縮小する形で組立キットが登場し、雑誌が勃興して1940年代には標準規格が確立した。1950年代には、アサーンなど安価なプラスチック製品が現れ、街に模型店が雨後のタケノコのごとく出現した。1960年代にはブラスモデルが日本から輸入されてハイエンド・モデラーに受け入れられるとともに模型店の懐を潤した。その一方で欧州からは安価なプラスチック完成品が怒濤のごとく押し寄せて量販店で扱われ、鉄道模型自体の裾野を拡大させた。各地にクラブも作られた。1970年代には、それらが好循環を生み、雑誌は我が世の春をうたった。1980年代は蒸機に代わってディーゼル機が趣味の主役となり、キットバッシュが盛んになった。実車への関心が高まり雑誌や書籍が盛んに発行されだした。


ブログ記事「PFM社ドン・ドリュー回顧録を読んで」より

1990年代は、韓国ブラスが爛熟期を迎えバリエーションが大幅に増えた。プラスチックは、細密化が模索されるとともに中国化が始まった。コンピューターの普及は設計の高度化をもたらし、品質が大幅に向上した。インターネットが始まり、実車や製品などの様々な情報が容易に手に入るようになった。


ブログ記事「モデル・レールローダー誌の10年」より

2000年代は、雑誌が急激に衰退した。中国モデルの席巻が進んだ。射出成型の表現力はブラスを遙かに凌駕して、高価格帯でも取って代わった。DCCも普及した。低廉な人件費を武器に完成品の形で投入され、キットは見捨てられた。かつて"RTR=Ready to-Run"という言葉は初心者向けを指し、イッパシのモデラーには見向きもされなかったのが、アサーンでさえ"Ready-to-Roll"をうたって、製品の完璧さをアピールする言葉となった。ネットオークションで個人対個人の取引が可能となり、巨大なアフターマーケットが現れ、それまで個人の手許に留まっていたプラスチック製品が一気に流通するようになった。メーカー直販が増えたこともあり、模型店は急減。通販量販店だって撤退に追い込まれた。一方でゲーム等、鉄道模型以外で魅力的な趣味の対象が増えた。

と、ここで最初の章に戻って現状認識となる。続いて、これらを踏まえて行く末を予測してみよう。まあ、10年前に試みて恥をかいたのだけれど :P

3.未来の見通し

これからどうなる。新製品供給の問題。ますます高くなる。中国以外へ生産工場を移せるだろうか。今までの流れだったら、労働集約産業の常として人件費の安い発展途上国を探す。たとえばベトナムやタイはどうだ。他方で、アメリカ国内へ回帰するという可能性も無くは無い。USA製にこだわっている例にケーディーやアキュレールがある。我が国のカトーも国内生産に特化している。新型コロナでのサプライチェーン寸断の経験を待つまでもなく、アメリカや日本の人件費は既に下がっている。企画設計から販売管理までを一元的にコントロールして、変化に柔軟に素早く対応できる。いくらリモートワークが進んでも、距離の壁は越えられない。
 または、コストカットを目指せば、完成品中心からキットへの回帰が起きる。完成品から撤退してキットに特化したアキュレールが、思いのほか善戦していることはこの流れだろう。ただし、この方向では市場は大きくならない。HOは縮小する。

もう一つはオンデマンド生産というのはどうか。自動車は既にそうだ。顧客がカラーとか装備品を選んで注文すると、その時点から部品を集めて組立が始まる。模型は種類が多すぎて無理、とばかりは決めつけられない。Nゲージを見てみろ。高度化していて、普通のモデラーには太刀打ち出来ない。販売の中心が新製品ではなく定番製品となれば、否応なくそうなる。商品を届ける宅配便は充実している。一方、市場規模は限りなく小さくなる。アメリカ以外に住んでいたら、アメリカ型趣味は不可能だ。(既にデカール印刷(掲示板参照)や3Dプリントはオンデマンド化している)

そう、日本と同じようにNゲージが盛んになる可能性がある。安価な完成品中心のNが興隆する方向に進むかもしれない。モーターが確実に進歩しているのだから性能的には十分だ。車両は安いし、レイアウトスペースは小さくて済む。3線式Oゲージの世代が退却し、新しい世代を中心に爆発的に広まるという筋書きだ。
 またセクショナル線路志向が進み、固定レイアウトは魅力を失うというのも、ありだ。要は、鉄道模型ごときに人生を賭けないという方向性だ。

ここで推論を飛躍させて、2つの面から迫る。

(3-1)多様性の進展

アメリカの鉄道模型は、どちらかというと、ジャンルが収斂(しゅうれん)しがちだった。1930年代に始まったゲージ戦争の中で淘汰が起こり、マイナーなOOやTTは消えていった。それは大量生産が価格を破壊し、寡占化を進めたからだ。生き残ったのは3線式Oゲージと、スケール志向のHOスケールだった。それがこれからは、多種多様なものがある程度の大きさを維持しつつ併存する。必然的にその一つ一つの市場規模は小さくなり、物価は上がるが、生き残れる。
 そしてこれは、社会でマイノリティが存在感を持つ姿と軌を一にする。

(3-2)平等性の進展

戦後のアメリカ型は異様だったという考えはどうだ。世界で唯一、豊かなアメリカが、それ以外の貧しい欧州や極東を利用するという図式だった。この不平等こそがアメリカ型を支えていた。その上下関係が無くなれば、低価格大量供給が止まり、物価は上がる。

そう、多様性と平等性の普遍化が起こる。すなわち健全な形になる。ここで選択肢が2つ、相互依存と、自給自足だ。前者は自由貿易主義で、後者は保護貿易主義。優れた文物は容易に国境を超えるから、規模が縮小されても貿易を進展できる。一方、過去の遺産であるビンテージ物で楽しむとか、キットに特化するとなると自国内で完結する。
 昨年末の大統領選挙は、この二者択一を迫る大事な分岐点だった。で、一応は前者の方向性となった。

以上はもちろん、暴理暴論愚理愚論。あまりに穿ち過ぎ。まあ、こういう記事も趣味の多様性ということで‥‥。えっ! 現在過去未来は、渡辺真知子?! (2021-02-06 投稿)

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コメント

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
お元気にされてますか? 
新3000系のプレミアムカーができているようなので機会があれば乗ってみたいところです。

>>おめでとうございます。とんでもない状況になってきましたね。ここ5カ月間、私は電車バスに乗っていません。報道を注視していると鉄道会社の経営が本当に心配です。10年前の戯れ言で「2035年:東京圏と関西圏の私鉄がそれぞれ大同合併」と予言したのですけれど、この分ではそれが10年早まりそうです【ワークスK】

投稿: ヤマ | 2021/01/02 14:08

☆ 謹賀新年、、というには
  遅くてすみません。
  久しぶりの投稿でご無沙汰しています。
  最新記事が出るたび、見せて頂いていますが、
  コメントできずに、これまた失礼しています。
  どうぞ、今年も宜しくお願いします。
  P.S.
  撮り鉄が出来ず、過去データの振り返り
  ばかりやっています。

>>コメントありがとうございます。ワッフルサイドを拝見しました。その横に怪しげなブツが‥‥(笑)【ワークスK】

投稿: SDTM | 2021/01/17 18:14

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