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2024/01/27

19世紀アメリカのアイスリーファー

I came across an interesting reefer in a YouTube video. I also did some research on refrigerator cars from the end of the 19th century.

YouTube動画で魅力的なビルボードリーファーに出会った."Refrigerator of the Bergner & Engel Brewing Co."と側面に記されている.(2024-02-24 動画消滅確認)
00Bergner.jpg

検索してフィラデルフィア図書館デジタルコレクションに行き着いた.醸造所に関するアルバムには,このリーファーの外観を含む37枚のリトグラフ・イラストが示されている.1890年頃に出版されたものという.【画像はクリックで拡大】

早速,側面を変形してみた.そこそこ"みえる"のだけれど,写真ではなくて絵画なのでパースペクティブが完全ではない.また縦横比を調整する必要がある.
Bergner3jpeg

もちろん,模型が欲しくなるのはファンの常.探すと,次のものが見つかった.

Clover House dry transfer

Art Griffin Decals

CustomTrainBoss?

Modern Rails Decals for Model Trains

E-Z Catch Train Shop (O-scale)

残念ながら,どれもイラストとは雰囲気が異なる.プロトタイプは車長が短いはず.何フィードだろうか.

ところで問題は,側面左に書き込まれた文言,"Grand Prize. Paris. 1878."と,"Centennial Exposition Philadelphia 1878"とが整合しないこと.女性の横顔を描いたメダルが1878年のパリ万博のものなので,後者は間違いだと思う.
 このメダルと鳥(フェニックス)のロゴは,詳細なものがアルバム内にある.適切なTrueTypeフォントがあれば…….HO-scaleで車体をスクラッチする場合は,ラジアルルーフが難しそう.台車やクイーンポストはTitchy Train Groupから入手できる.

 なお,この醸造所は1920年,禁酒法時代の始まりと共に廃業したという.クダンのアルバムに示された風景は,広大な敷地と大規模な生産設備,それにおびただしい数の従事者を示している.これらが無になるという影響の大きさに気の遠くなる思いがする.

shop11.png

空気ブレーキと自動連結器が普及する前の19世紀末は興味深い時代である.車両が小さくてレイアウト向きだし,多くの人がご存じないのでfoobiesを走らせても誰も気が付かない.資料が無いかというと,そうでもなくて.皆さんご存じのCar & Locomotive Cyclopediaシリーズが1879年に創刊されている.私が作成したリストをご覧いただきたい.一部は無料ダウンロードできる.

このリーファーの大きさを知りたくて,これら初期のCar Builder's Dictionaryを繰ってみた.1888年版(Google Books所蔵)に寸法の判る図面が見つかった.

CBD1888fig126-129.png

 "Ayer Rubber Refrigerator Car"といって,車端氷槽式ではあるものの,我々がイメージするアイスバンカーice bunkerとは,構造があちこち異なる.側出入口の扉が,開き戸と引き戸の二重構造だったり,氷塊投入口が妻面と車内に存在するなど,じっくり見ていただけると思いのほか楽しめる.外気通風の機能を持っていた可能性がある.
 付属品を除いた車体の外寸は,長さが28.000フィート,幅が8.625フィートで.レール面上屋根歩み板の高さは11.927フィート.側板下辺上の軒高さは比例案分で8.257フィートとなる.Bergner & Engel車は,これか,もう少し短いかもしれない.

Aryer reeferの特許情報は国立アメリカ歴史博物館にあった.ラバーrubberといえば,この時代は天然ゴムである.発泡体なら車体の断熱や扉の気密性保持に使える.ただ,その開発された時期が判らない.耐久性には難があったと思う.

同じCar Builder's Dictionaryの1888年版に,"Tiffany Summer & Winter Car"が掲載されている.寸法の記載はなく,車体長27フィートほどだろうか.この"Commercial Express Fast Freight Line"とレタリングを施した模型にライオネル製品が見つかった.ただし,スタイルは新しすぎる.

CBD1888-Tiffany3.png

メーカーであるTiffany Refrigerator Car Companyについては,いくつか情報にアクセスできた(Builders of Wooden Railway Cars等).1877年が創業で,1900年頃に廃業したようだ.構造は基本的に天井氷槽式で,いわゆる氷式の家庭用冷蔵庫.1950年代まで日本でも見られた.
 屋根上に氷を収納する細長い小屋を設けたイラストがウィキペディア英語版に掲載されているが,製造数はわずかだったという.普及した構造はここに示す天井全長に氷槽(pan)を設けたもので,このスリ鉢状断面の氷槽はブリキ板製らしい.屋根と側板,それに床面を5重として断熱に努めている.断面図にいうDrip-panがイラストの床下に吊り下げられた箱.軌道にご法度の塩水を溜めるタンクだろう.学校の理科の実験で習ったように,寒剤の塩を氷に混ぜれば氷点下まで下げられる.

7年前の1881年版(広告)では氷槽が平底となっている.1888年版は改良した結果なのだろう.屋根上ハッチは形状が四角で吊環付きである.このハッチ上面は屋根板とツライチなので判りにくい.後年のようなヒンジ式ではない.文言の"Absolute protection from extreme cold"というのは,極寒からの保護ほどの意味で,酷暑は防げないということの裏返しと勘ぐれる.

CBD1881-Tiffany.png

実車写真があった."Billboard Refrigerator Cars" (Richard H. Hendrickson and Edward S. Kaminski著)の18頁.所属はBurlington Cedar Rapids and Northern Railwayで,1888年製造.車長は34-ftと書いてあるけれど.もっと短い27-30フィートだと思う.

Tiffany carには3-footゲージもあった.DSP&Pの解説サイトによれば1880-1883年製で26-27フィート長,合計27両だという.図面などの情報が潤沢なためか,モデル製品には事欠かない.グラブ・アイアンやブレーキ装置の様子から,これらはどれも後年改造された姿だと思う.

次も1888年版で天井氷槽式.Fly, Cloud & Wallという名.冷気はこんなに都合よく循環してくれるものだろうか.

CBD1888-Ely.png

1888年版にはLorenzというのが見える.2種類が示されていて,左は側出入口の扉が二重で保冷車の様である.床面のトラップドアや溝は,積み荷にマブした氷塊が解けた後の対策なのだろう.
 右は車端氷槽式で氷塊を追加できる構造である.サイドにハッチを設けた点が新鮮?

CBD1888-Lorenz0.png

次は,1879年版と1881年版にも載っているもので,1888年版では「旧型,屋根の下のアイスボックスに関して不完全なエッチング画(?)」とコメントが付された.

CBD1888-old-style.png

この辞典の編纂者は、Matthias N. Forneyという有名人。技術に関して理想主義的な点が気になる.それは台車に関しても感じた(2012年2月7日の記事).語句解説では18種類の方式に評価を下してしまっている.

Refrigerator car. Figs. 11-12,126-134. A car for carrying perishable articles, especially meat. constructed with compartments in which ice is carried. and with double floor, sides and roof, to keep the ice from melting. A great variety of types have been designed, but they can all be reduced to four general classes, viz.: Those which use ice and salt, or ice only, for refrigerating, and those which carry ice overhead in ice-pans or in the ends of the cars in ice-racks or tubes. The most important difference of all in refrigerator cars, the difference in the character of the circulation and dryness of air, is not touched by this classification, nor can it be gone into. The temperature aimed at is about 40°F., or 8° above freezing. Many of the older cars were mere air-tight boxes, without any circulation whatever, with the effect that an unnecessarily low temperature was required in one part of the car to keep all cool enough. The principal difference in the external appearance of refrigerator cars, as will be seen in fig. 12, is their greater height and width. Refrigerator-cars using salt use from 1 to 2 bushels for each 100 lbs. of ice.

The following is a practically complete list of the various refrigerator cars. which are somewat more fully described under the name of each. All cars, unless otherwise noted, use ice only, without salt.

Allegretti. - Roof ice-box; good circulation.
Anderson. - Ice-box in end; poor circulation.
Arctic - (Empire Line) - Ice troughts along side of the car near roof. Takes full cakes of ice; good circulation.
Ayer. - Figs. 126-9. Ice-box in end; fair circulation.
Birdcall. - Iron ice trough in an upper deck for the full length of car.
Chase. - Ice-box in end.
Davis. - Ice and salt; ice-box in roof, no circulation.
Davis Improved. - Ice-box; fair circulation.
Fly, Cloud at Wall. - Figs. 181, 181-1/2. Roof ice-boxes: Circulation made a special point.
Fisher, or "Diamond R." - Ice-box in roof in upper deck; patent owned by the Pennsylvania Railroad Co.
Hamilton. - Ice and salt; vertical ice-flues.
Higgs. - Ice-box in end of car, supplied from the roof.
Lorenz. - Fig 180-180-1/2. Ice and salt.
I'ost. Salt and crushed ice; circular ice-boxes at each end. 16 in. in diameter. The drip utilized for refrigerationg.
Ridgway. - Ice boxes in end; separate chamber for the circulation of air.
Tiffany. - Fig. 180a. Roof ice-pan; elaborate insulation.
Wickes. - Ice and salt.
Zimmermann. - Ice-box in roof whole length of car; uses broken ice, no circulation.
Zimmermann Inproved. - Ice and salt; ice-boxes in end pieced with a number of flues.

---こうしてみてくると,冒頭のBergner & Engel車は,妻面のハシゴと車番,それに手ブレーキの位置に違和感を感じる.レタリングこそ1890年頃であるものの,新造は1870年代以前と判断したくなる.
 積み荷のビール,あるいはエールは,樽詰で運ばれ,樽の間に氷片をバラ撒く抱き氷だった.この時代,氷塊は冬季に採取して氷室で保管するか,開発されて間がない製氷機に頼るしかなかったからコストが嵩んだ.よってリーファーの積み荷は精肉や酒類といった値の張るものだった.1890年代に実用的な製氷機が登場した結果(ウィキペディア英語版),爆発的にアイスリーファーが普及し,安価な農産物の輸送にも拡大していった……という解釈でいいのかな.

 いかがだろうか.19世紀のリーファーにご興味をお持ちいただけただろうか.まあ,こんな感じで毎日,模型も弄らずに妄想の世界に浸っている.

>>Atlas Rescue Forum

P.S. Wikipedia-Englishに登場する次の断面図は,"Early refrigerator car design, circa 1870"という説明なのだけれど,1870年というのは完全に錯誤である.ここで説明してきたリーファーの構造に合致しないし,第一,履いている台車がベッテンドルフ型である.これは1903年に創業した会社が製造したものなので,この面でも年代が合わない(2012年3月3日の記事).それに空気ブレーキと自動連結器も可笑しい.バーリントンの空気ブレーキ実験と,MCBAがジャニー式転結器を標準と決めたのは,共に1887年で,両者の装備を義務付けた鉄道安全装備法の可決が1893年,10年後にほぼ達成という有様なのだ.さらに肝心の出典が示されていない点は致命的だ.
Early_refrigerator_car_design_circa_1870

【追記】湧いてくる興味が抑えられず,"The Great Yellow Fleet -A History of American Railroad Refrigerator Cars"という本を買ってしまった.高かった.2024-02-09

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