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2024/05/11

MR誌とTrains誌の身売りに思うこと

Three reasons why Kalmbach lost in my opinion

この5月1日に,かの地の掲示板がどこも騒然となった.カーンバックKalmbach社が売却されたというニュースが流れたのだ.我々になじみのModel Railroader誌やTrains誌,さらにはClassic Trains誌,Classic Toy Trains誌,Garden Railways誌などを擁していた出版社である.
 鉄道模型情報室で5月2日にお伝えしているので,買収したファイアークラウンFirecrown社の公式発表や各掲示板へのリンク先はそちらをご覧いただきたい.

ここでは私が2010年に「モデル・レールローダーの10年」という投稿をした当時から思っていたことを綴ってみたい.


MR誌の1984年1月号268頁と2018年1月号64頁

(1)雑誌の価値は情報のみにあらず

アメリカでは今までに,総合鉄道模型雑誌としてMainline Modeler誌,RailModel Journal誌,Model Roading誌,それにPrototype Modeler誌が消滅してしまい,現在はRailroad Model Craftsman誌とModel Railroader誌のみが残っている.一方日本ではTMS誌,RMM誌,Train誌の3誌が延々と発行され続けている.

これは一体,どういうことなのか.
 私が思いついた一つの理由は見た目である.日本の3誌は装丁だけでなく,厚さ,ページ数,紙質,写真印刷の解像度などの点で優れている.内容はともかく,これは明白だ.
 この違いは昨日今日に始まったものではない, 実際,ジョン・アレンが撮影したG&Dの最も美しい写真は,1970年代の日本のTMS誌に掲載されたものである.それ以来ずっとこんな感じだ.

アメリカの雑誌,特にMR誌はニューススタンドでも販売されるためか,表紙にたくさんの情報を載せていて,あたかも週刊誌のようだ.紙質が悪く中綴じでコシが無いから,本棚に立てて並べることが出来ない.私の保管方法はダイソーの書類入れに平積みである(>>過去記事).

つまり,雑誌は情報としてだけではなく,モノとしても価値を有して存在すると考えられる.もちろん文化の違いもあるので一概には言えない.上品で我が国でも人気のあったMainline Modeler誌が早くに廃刊となってしまったし…….それでも,新しいオーナーが検討する価値はあるはずだ.

(2)偏食は趣味にもよくない

私の鉄道模型との付き合いは,1960年頃に始まった.最初は親から買い与えられた3線式のOゲージだった.しばらくして自我が芽生えるとHOゲージに移行して,いくばくかのパーツと雑誌を買い漁ることによって空想的な世界に浸ることとなった.勉学の呪縛から解放された後はペーパー電車の自作に励んだ.懐が温かくなるとスイス型BEMOが面白くなった.そして1993年の訪米で米国型に没入することとなる.

ここで特記すべきは,雑誌の影響だ.日本の3誌はどれも鉄道模型を総合的に扱っていた.日本型のみならず外国型も,HOのみならずOもNも,スクラッチのみならずキットバッシュもコレクションも,レイアウトのみならず実物の鉄道も,と,何もかもを詰め込んでいた.
 そりゃあナローファンは偶にしか取り上げられないから不満をくすぶらせる.日本型ファンはアメリカ型を毛嫌いする.高価なコレクションは鼻持ちならないと感じる者もいたはずだ.
 けれど,年月が経過して時代が転換し,自身の境遇が移ろうと嗜好も変わる…….
 そして,過去の号を見直すと,新しい発見がある.読み飛ばしていた記事に魅入られる.古い広告で歴史がたどれる.雑誌は発行された時だけ楽しむモノではないのだ.

カームバック社は鉄道と鉄道模型関係で複数の雑誌を発行している.模型ではMRの他にGarden Railways,Classic Toy Trains,実物ではTrainsとClassic Trainsである.これ,分け過ぎたのではないだろうか.まとめれば,余分な頁を買わせることになるけれど…….

様々な要素を詰め込んだ総合雑誌は,栄養に偏りのない幕の内弁当である.それを積み重ねると広遠な世界が広がり,長い人生で楽しめる.また,異なる嗜好の人々を結び付ける助けになるはずだ.

(3)雑誌編集者は趣味を持っな

昔,TMS誌には山崎喜陽氏という社主兼編集長がいて,毎号ミキストというコラムを綴っていた.その文が,上から目線であることに私は反感を持っていた.模型も作らないで,あーだ,こーだ,と論評する資格があるのかといった塩梅である.それに引き換え,同誌の編集者の一人だった中尾豊さんは,模型用詳細図面を描き,モデルを手掛けて記事を書くというスタイルで,尊敬していた.

二十歳の頃の生意気な私は,その疑問を中尾さん本人にぶつけてみた.もちろん,婉曲的な表現を使ったはずだ.すると,意外な答えが返ってきた.自分のスタイルは雑誌編集者として不適格だというのだ.具体的に何と言われたのかは思い出せないが,しばらくして意味を咀嚼するとそう解釈出来た.要約すると次のような話だったと思う.

模型に手を染めると,どうしても集中して没入する必要が出てくる.手掛けていること以外を観なくなる.ブラスのスクラッチをしていれば,プラスチックのNゲージなんて視野に入らないし,見下すことだってある.編集者は,それでは駄目だ.
 それと,雑誌の代表者は常に読者に自誌の方向性を示し続けなければならない…….

直後は山崎氏を擁護したのだろうと勘繰った.それが,私自身が社会へ出て仕事をするようになると,趣味が悪影響を及ぼした例に度々遭遇した.完全に捨て去るわけにもいかず,自戒しつつ現役時代を過ごした.中尾さんもこんな心境だったのだと思い至った.
 後年,中尾さんは御自宅でLGBの庭園鉄道を展開された.多くのモデラーは違和感を持たれたかもしれないが,こんな背景があったのだと想像している.

ここでカームバック社に話を戻すと,従業員は社内でMR&T="Milwaukee, Raicine & Troy Railroad"というレイアウトを展開していて,MR誌にも記事が時々掲載され,特別号まで出版される.
 これ,中尾さんの話から連想すると,社員の頭を固くしてしまう効果,視野を狭めてしまう弊害があったのではなかろうか.

……とまあ,いつもの老人のヨタ話だった.聞き流していただければ幸いである.

【追記】以上をMRフォーラムに投稿してみた.反応は英国のモデラーが突っかかってきたくらいでイマイチだった.この国でさえ突拍子もない意見の範疇なのに,異文化の連中に拙い英語が伝わったとは到底思えない.でもまあ,新しいオーナーの目に触れて,何かを感じてくれたらと願う.2024-05-15

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コメント

まことに示唆に富んだ、深遠な内容のご意見です。中尾豊氏のようなことは、なかなか言えないと思います。人格的にも立派な方なのですね。
私が東急電鉄に在職していた時は、鉄道の趣味が業務に及ばず影響には、プラスマイナス両面があると思っていました。会議等で、自分の思い入れを延々と述べて出席者を辟易とさせる人もいました。反面、鉄道には趣味的な関心のない人で、自社の車両にはとても詳しいのに、隣の会社の車両のことは驚くほど知らない人も珍しくありませんでした。

>>仕事自体への取り組み方も関わってきますから,実際,難しい問題です.いずれにしろ,置かれた場所で最善を尽くすしかありませんね【ワークスK】

投稿: 川口雄二 | 2024/05/17 08:36

MR誌の身売りは驚きましたが、廃刊となる訳ではないので、何とか立ち直ってもらいたいものです。小生は1978年から購読していて、惰性で買っている感じもあるが、やはり新しい情報を紙媒体で得たいと云う理由で続けています。雑誌全般の事情としては、ITの進歩で紙媒体の地位低下がありますが、ここは鉄道(模型)業界の特質から、今回の件を考えてみましょう。日米の比較では、米国の人口は大雑把に日本の3倍あり、単純に、総合雑誌への需要も3倍あると思います。しかし、国鉄と云うものがなく、全ての読者が共通に関心を持つ鉄道がありません。人口が多いのは総合誌に有利かと云えば、そうでもありません。何故なら、総合誌でなくとも、コマーシャルベースに乗るだけの、市場があるわけでしょう。実際、総合誌以外の雑誌が数多く出版されてきました。実物誌は各鉄道や地域に特化して出ているし、模型誌もナローやトラクション、或いはライブ、ゲージ毎などに特化し出版されてきたと云う状況です。こうなりますと、自分の関心のある専門誌しか購入しない人も出てきます。人口の多いことが、総合誌には案に相違して逆風になったのではと思います。日本の新聞読者のように、地方へ行くと全国紙と地元紙を併読すると云う構図になっていれば良かったのだが、そうはならなかったのでは? しかし、米国の3分の1しかない日本で総合誌が3誌も続いており、MRとRMCの2誌が続けていける余地はあるようにも思いますが・・・。MRもあと10年続けば創刊百年、頑張って欲しいですね!

>>同社もデジタル展開に真剣に取り組んできことは万人が認めるところです.しかし,どれもビジネスとして上手く働かなかったわけですね.掲示板は収益に結びつかないからと放置されてボロボロ.対してフリーネット誌のMRHは好調……のように見えます.新たなオーナーがどう展開するのか,みなさん,固唾をのんで見守っています【ワークスK】

投稿: 宮崎繁幹 | 2024/05/17 08:42

詳しい解説をありがとうございました。アメリカの鉄道趣味誌がそのような状況にあるとは、初めて知りました。TMSがRMMの「軍門に下った」時も驚きましたが。
趣味のこととはいえ、あまり「偏食」はしない方が良いことは、私もこの趣味を始めて60年にして最近実感したばかりです。従来アメリカの鉄道にはあまり関心がなかったのですが、最近突然面白そうだと思われてきたのです。そんなわけで、温めてあった アメリカ製のキットを仕上げました。
https://photos.app.goo.gl/EMCMT3DHFbtwbA619

>>おおっ! ロシアンアイアン! 俯瞰と集中を交互に繰り返して,事を成し遂げるしか術は無いのですね【ワークスK】

投稿: 川口雄二 | 2024/05/17 18:31

ワークスK様
ありがとうございます。この写真だけですぐにロシアンアイアンとお分かりになるとは、さすがです!
アメリカ型に疎い私には、どんな客貨車がこの機関車に似合うのか分からないので、目下勉強中です。

>>19世紀の末期,我が国でいったら明治の中頃ですか.選り好みをしなければ古くはModel PowerとかRoundhouse,AHMなんかに製品がありました.ヤフオク!でも時々出品されますね【ワークスK】

投稿: 川口雄二 | 2024/05/18 21:22

ワークスK様
ご教示ありがとうございます。とりあえずコンコーの木製ボックスカーで1900年代と謳ったものを1両手配しました。引き続き仰るような客車を探してみます。

投稿: 川口雄二 | 2024/05/19 06:59

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