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2025/02/23

京阪2400系の床と8000系のモケット

鉄道ピクトリアル誌が特集を組んで,京阪の2600系を大々的に取り上げた.2025年4月号である.2200と2400を含んで,この車体断面の一党だという.巻頭に一文を寄せられた岡秀敏氏が,その文の中で私の名前を出したことで,律儀にも一冊を送ってくださった.懐かしくて,少し思い出してきたので,それを披露しておこう.【画像はクリックで拡大】

京橋大カーブ

まず言及しておかなければならない点は,2400系の床面の色のことである.同氏の文では,改修工事(1989-1991年)では緑色と茶色が1両毎に交互に使われていて,それは私が決めたことになっている.確かにそれを担当していた時期なので,そう解釈されても仕方がないのかもしれない.ただし,話は込み入っている.

前提として知ってほしいことは,改修工事では,車両自体の価値が上がるということ.
 減価償却という言葉を御存じと思うが,新造したときの価値は,年月が経過すると徐々に下がっていく.それを経理上で減価償却という.そして,ある時期が来たら,大幅に手を入れて新造時に近づける.そう,車両の価値が戻るわけ.
 そのために使う予算を「建設仮勘定」,略して「建仮(けんかり)」と呼んだ.

一方,定期検査において車両の塗り替えや車輪の交換をする費用は,単に車両の状態を維持するだけで価値を高めることがないから,別扱いとなる.「保守費」という括りである.
 これらは厳密に区別された.なぜなら保守費は経費だから,経理上では費用で落とせる.会社の所得税が安くなる.ところが建仮は設備投資だから,固定資産税に反映される.減価償却して残った資産価値に対して,固定資産税が掛かる.これは経理担当者にとっては頭の痛い問題で,税務署の目も厳しい‥‥.

さてここで,床面の話である.これを張り替えるのは,摩耗したものを元に戻すのだから,どちらとも解釈できるのだけれど,少額だから保守費に入る.現場では日々,施工しているしね.だから,予算を含めて担当は基本的に現場.で,予算が限られているものだから現場は「塗床(ぬりゆか)」という技術を導入した.床敷物の摩耗が比較的少ない場合に,敷物を剥がさないで,その上からコート材を塗る.だから緑色.
 ところが摩耗が進んでくると,張り替える必要が出てくる.床の周囲の留め金を全て外すなど,材料費を含めて確か40万円ほど余分に掛かったはず.そこで,現場は編成全部を一度に施工しないで,半分ずつを1年半ほど時期をずらしてやっていた.人手の段取りの都合もある.ただし今回,せっかく張り替えるのだからと内張り色に合わせて茶色を採用してもらった.それは6000系で採用した配色だった.
 以上が床が交互に茶色と緑色となった理由である.

まあ,床面は踏みつけられて直ぐにツヤが失われ,色彩なんて誰も気にしなくなるし,乗客が存在すれば,見えない.
 ところが当時の検車課長が気付いてしまった.なぜ統一しないのかと‥‥.そりゃあ,鬼の首を取った勢いだったな.予算のことを説明したけれど,聴く耳持たず.どこもそうだよね.現場に相談したら,じゃあ全部,建仮でやれっていうのよ.いろいろと借りがあったしね.泣きたかったなあ.

2705号車(2000系2次車中間車)で、これが塗床だと思う.(2011年1月撮影 中之島
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岡秀敏氏の文は,この茶・緑の床から連想して,8000系新造時の座席モケットの色に言及している.1両おきにピンクとベージュとしたのは,私の思惑のような書きぶりである.これも異なる.

それは,8000系の計画が煮詰まった段階で就任してきた新車両部長が原因である.
 車両メーカーに依頼したデザインは若年齢層向きと中高年齢層向きの2種類だった.コンセプトはインフォーマルだったから,共に淡い暖色系で乗客を刺激しない配色を頼んだ.上司に選ぶ優越感を抱かせるという効果を狙っていたかもしれない.

で,結果は,皆さんご存じの御聖断が下されたわけ.発注時のコスト増とか,予備品の用意とかのデメリットを説明したけれど,彼も聞く耳を持っていなかった.前任の部長だったら違ったのになあ.タイミングが悪かったと,ため息が出た.話題作りだそうだが,なんだそれ.誰が誰に話題としてもらいたいんだあ.コストを考えろよ.

なお,モケットは,段付きに拘った.座っている間に尻が滑ってしまうのを防ぐためで,その作用はビードの方向には無関係.他社を含めて,誰も気が付いていないと思う.

カーテンは,メーカーがプリーツ式を提案してきた.私の経験では,これを長い時間,見つめると折り目の歪みが気になってくる.毎日見るのは精神的に苦痛.カーテンに求められる機能は,遮光と遮音,断熱.だから厚くて値の張る布地を奮発した.

モケットもカーテンも,2011年からの改修工事で方針が全部,引っ繰り返ってしまった.根本的なコンセプトが変わったのだろう.

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1989年9月 寝屋川車庫 撮影は同僚に依頼

現役時代,趣味で仕事をすることを厳に戒めていた.親に言われたこともあったけど,個人の趣味性は逆に制約となりロクな結果を招かないという苦い経験があった.車庫で仕事以外の写真を撮らなかった理由もこれである.

漏れ聞くところによると,京阪の鋼製車は2026年度までに全廃になるという.2200,2400,2600,それに1000系.いずれも深く関わったから寂しい気持ちはある.でも他社の様子を眺めれば,遅きに失した感が強い.
 直流モーターも同じ.8000系なんかをいつまで第一線で使うのだろう.たぶん,走行距離が伸びて,これが車両工場の足枷せとなっている.第2編成以降を増備せよと,担当役員が言い出したときには,目の前が真っ暗となった.VVVF技術の進展具合と検修体制の未来図,さらに外注工事の継続性を必死で説明したけれど,ケンモホロロ.

クソー,忘れていた怒りがこみあげてきてしまった.
早く頭をアメリカ型へ切り替えなければ‥‥.

【追記1】塗床は2600系だけだったかもしれない.つまり2400系の床敷物の張替は,編成の半分ずつを1年半だけずれた定期検査で施工したということだったような気がしてきた.こちらは色の変更を頼んだだけなので,そのあたりの記憶が曖昧である.

8000系転クロの予備品は,各色1セットを手配したはず.ただ,注文担当者が1セットに変更して,被せるモケットだけを2種類としたかもしれない.頭の回る“横暴な”ヤツだった.
 座席の白色カバーは検車課の担当で,その発注分は成型プロポーションを間違えてブカブカだった.旧3000系用を改造したと聞いた.後年は,包み込む形から前掛け式に変更され,色もダーク系となった.清潔感が求めらた我々の時代には考えられないものだと思う.
 カーテンも検車課持ちで,いつなんどき,いたずらされるかもしれないと,最初は1編成分のストックがあったのではなかったか.もちろん,防燃性だったことはいうまでもない.2025-02-24

【追記2】今回,つくづく,事の真相って伝わらないものだと感じさせられた.一緒の職場で働いていて,この誤解を生んでしまったのだから,なにをかいわんや.
 好みで仕事をしていると,そんなふうに見られていたこともショックだった.目的を真摯に追求し,合理的にものを考え,理屈に合わないことは排除する.自分の仕事を取り巻く環境を隅々まで探求し,現場に足しげく通い意志の疎通を欠かさない.そう心がけて行動していたんだけどなあ.
 まあ,理解してもらおうなんて,これっぽっちも思わなかったけど,仕事で遊んだことなんてなかった.今から考えると,周囲からは,ぶっ飛んでいたように見えていたのかもしれない.想像すらできない考えや行動だから,風変わりと映っていたのだろう.
 そんな人間の言うことをよく聞き入れてくれた上司は,誰も偉くならなかったなあ.割を食ったのはコッチも同じ.聞く耳を持たなかった男たちは,ほとんどが雲上人となった.人生って理不尽なものだ.でもまあ,健康を維持し理解ある家族に囲まれた老後を過ごせているから,不満はないけど‥‥.ときどき,昔を思い出して腹が立つけど‥‥.

それにしても,伝聞の情報って,扱いが難しいよね.海の向こうでインシデントの重要性が声高に叫ばれていたけど,身近なところでもその欠乏事案が発生したなんてショックだ.まさか,活字になったからって,某フリー事典に載ったりしないよね.勘弁してよ.2025-02-25

【追記3】この号が,くずはモール水嶋書房に20数冊,平積みされていた.また立ち読みしたTMS誌2025年3月号に広告が載っていた.2015-03-01

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コメント

同じく鉄道を趣味としつつ本務ともした者として、共感させられるやら身につまされるやら。本当に私と似た境遇でいらっしゃったのですね!おまけに歳まで同じ(笑)
私も趣味と仕事は切り分けるよう努めていました。というより、自然とそうなってしまいました。私も自社の構内で車両の写真は撮ったことはなく、また東急の車両の模型を持ったことは一度もありません。

>>コメント多謝.このように愚痴をこぼせて,聞いていただける読者にも恵まれているわけですから,よしとしなければいけませんね【ワークスK】

投稿: 川口雄二 | 2025/03/11 16:07

私の在職中には、時として驚くほど他社の車両のことを知らない人がいたものです。そういう人はそれを、俺はマニアではないから、と言って合理化していました。マニア云々ではなく、単なるあなたの勉強不足だろ!と腹が立ったものでした。あ、私も愚痴になりましたね(笑)

>>たしか菊名を過ぎた辺りだったと思うのですけれど,カーブで妻窓からの日差しが変わったんです.そこでその窓にカーテンが無いことに気が付きました.寝屋川では,ここのカーテン両側のホツレ修理に苦労していたのです(6000系以降は窓無し).帰社して確認の上で提案したことは言うまでもありません.まあ,他社線では鵜の目鷹の目でしたね【ワークスK】

投稿: 川口雄二 | 2025/03/12 13:44

入力されたアドレスにメールをお送りしたのですけれど,「メール送信エラー」と表示されました.お手数ですが,受信可能なメールアドレスをお示しいただいて再度,ご発言ください【ワークスK】

投稿: tokumei | 2025/04/05 20:19

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